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ヒガンバナ/ひがんばな/彼岸花
Red spider lily
【ヒガンバナとは】
・中国の揚子江付近を原産とするヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草。日本に渡来したのは仏教伝来の前後(縄文時代という説もある)で、デンプンの採取を目的として民家近くに植えられものが田畑の畔や土手、道端などで野生化したと考えられている。
・ヒガンバナは寒さにやや弱く、北海道や東北北部では寒さに耐えられないが、それ以外の地では丈夫に育つ。関西地方により多いが、埼玉県日高市の巾着田曼殊沙華公園や同幸手市の権現堂桜堤など、関東地方にも名所が多い。
・秋の彼岸になると突然姿を現すことや、全草に毒があること、墓地に多いこと、そして花の時季に葉がない奇妙な姿から、ヒガンバナは縁起の悪い花とされることが多い。昔は家へ持ち帰ったり、生け花に使ったりするのをタブー視する風潮があったが、欧米で改良された園芸品種の普及などによって近年は観賞価値が見直されている。
・「死人花」「毒花」「地獄花」「葬式花」「舌曲がり」など、毒のイメージによる別名や方言名が多く、その数は植物界で最多の1,000以上に上る。よく知られる「曼殊沙華」は仏教において赤い花を表す梵語に由来し、「この花を見る者は自ずから悪行を離れる」とされる。
・鱗茎(球根)は鶏の卵くらいの大きさでノビルに似る。アルカロイド系の有毒成分(リコリン)を持ち、汁液に触れただけでも皮膚の炎症が起きるが、誤食すると嘔吐、下痢、痙攣、心臓麻痺などを引き起こす。
・ヒガンバナが墓地に多いのは、土葬の時代、動物に墓地を荒らされないようにしたもの(この点は、シキミやアセビも同じ)。田畑の畔に多いのもモグラやネズミなどの害を防ぐためと考えられている。しかし、鱗茎から採取できるデンプンを精製したものは食糧となるため、飢饉に備えて人家の近くや水田の畔に植えていた。
・ヒガンバナの開花時期は秋の彼岸前後で、鱗茎から伸びた30~70センチほどの花茎の先端に鮮烈な赤い花が5~7輪まとまって咲く。見分けのつかない花弁と萼が計6枚あり、6本の雄しべと1本の雌しべが突き出る。
・花が枯れると初めて葉が現れる。葉は深緑色の線状で艶があり、やや厚めだが触れると柔らかい。冬季も落葉せずに越冬し、翌春(3月~5月頃)に枯れるまでしきりに光合成して養分を蓄える。花と葉が巡り合わないことから「ハミズハナミズ」という別名がある。
・日本のヒガンバナは染色体が三倍体で花粉や胚珠が異常になるため果実ができず、地下にある球根(鱗茎)が分離することで増殖する。このため毎年同じような場所に咲き、人の手が入らないような山間には見られない。同じヒガンバナ科のニホンスイセンも同様で、人の手によって繁殖した。
・鱗茎の毒性は薬として、咳止め、痰切り、利尿、足のむくみ、水虫やタムシの治療に使われる。また、ヒガンバナから作ったデンプンには虫がつかないため、屏風や襖などの表具細工や友禅の糊付けに使う。
【ヒガンバナの品種】
・コヒガンバナ
小型のヒガンバナという意味で名付けられたが、花の形状や大きさに相違はなく、種子のできる点が異なる。ヒガンバナはコヒガンバナの突然変異種と考えられている。
【ヒガンバナに似た花】
・シロバナマンジュシャゲ(白花曼殊沙華)
同じような形をした白い花を咲かせる多年草だが、ヒガンバナの白花種ではなく、暖地に見られるショウキズイセン(下記)とヒガンバナの雑種。庭園や観光名所にしばしば植栽されており、さほど珍しいものではない。
・ショウキズイセン(鐘馗水仙)
九州以南の暖地に育つヒガンバナ科の多年草。ヒガンバナよりもやや遅い時季に、黄色い六弁花を咲かせる。花の形状はヒガンバナに似るが、花弁は幅広で波打ち、反りが浅い。
ヒガンバナの基本データ
【分 類】ヒガンバナ科ヒガンバナ属
多年草
【漢 字】彼岸花(ひがんばな)
【別 名】曼殊沙華/死人花/毒花
地獄花/葬式花/舌曲がり
【学 名】Lycoris radiata
【英 名】Red spider lily
Hurricane lily
Red magic lily
【開花期】9~10月
【花の色】深紅
【草 丈】~70cm