庭木図鑑 植木ペディア > ナシ
ナシ/なし/梨
Japanese pear tree
【ナシとは】
・バラ科ナシ属の落葉樹の総称。日本で栽培されているナシの多くは、ヤマナシを起源とする日本ナシ(和ナシ)だが、ほかにヨーロッパ中南部を起源とする洋ナシ、中国北部を起源とする中国ナシ(カラナシ)がある。
・ナシの果実は水気が多くて香りが良く、夏季の風物詩とされる。日本で最も古くから栽培されてきた果樹の一つで、日本書紀にもその名が登場し、五穀の代用として植栽を推奨したほど食糧としての期待が高かった。本格的な栽培は江戸時代以降のことだが、今日流通する品種の多くは明治時代以降に広まった。
・開花はサクラとほぼ同じ4月中旬頃で、短い枝の先端に5~10輪がまとまって房状に咲く。花は白色で直径3~4センチほど。花弁は5枚あり、雄しべの先端は赤くなる。清楚で美しい花だが花弁は落ちやすい。「枕草子」では愛嬌のない人の顔に例えられ、今でも花木として観賞される機会は少ない。
・葉は大きな卵形で縁に細かなギザギザがあり、先端は尻尾のように伸びて尖る。新葉は柔らかな毛があって赤実を帯び、枝から互い違いに生じる。枝の色は黒紫あるいは緑を帯びた灰色でツルツルしているが、大木ではトゲ状になる枝もある。
・果実は直径5~10センチの球形あるいは楕円形で、外皮には細かな斑点がある。色は品種によって異なるが、緑色の強いアオナシ、褐色の強いアカナシに大別される。前者には「二十世紀」「八雲」などが、後者には「香水」「豊水」「新高」「新興」などがある。また、中国ナシの代表には「ツーリー」、洋ナシの代表には「パートレット」がある。庭木として使う場合は赤星病の被害を受けない「大原紅」などの品種が望ましい。
・ナシ独特の舌触りは、果肉に「石細胞」が多いことによる。特に洋ナシではその傾向が高く、収穫後、箱に入れて1週間ほど放置する「追熟」が必要になる。
・ナシという名前の由来には諸説あるが、果実の中が白いことを意味する「ナカシロ(中白)」が短縮したもの、あるいは果実の中が酸っぱいことを意味する「ナス(中酸)」が転訛したものとする説が知られる。ナシの別名にはアリノキ、アリノミがあるが、これはナシという音が「無し」に通じることを忌み嫌ったもの。
・歌舞伎や芸能の世界を「梨園」と呼ぶが、これは音楽や舞踏を好んだ古代中国の玄宗皇帝が、梨畑に芸人の養成所を作ったことに由来する。
【ナシの育て方のポイント】
・日照を好む「陽樹」であり、植栽は日向に限る。日当たりや通風が悪い場所では、病害虫が発生しやすい。土質は選ばないが、粘土質の土壌に植えると生育が良い。
・夏は温暖かつ雨の少ない地方が適する。雨が多い場所では黒星病、黒斑病、赤星病、輪紋病、胴枯れ病などの病気に罹患し、梅雨時にはシンクイガ、モンクロシャチホコ、クスサンなどの蛾の幼虫、ハマキムシ、アブラムシ、ルリカミキリ、カメムシなどの害虫による被害が多い。なお、カイズカイブキは赤星病を誘発するため、ナシの栽培地において植栽を禁止している例がある。
・自然に育てれば樹高は6mほどになり、収穫が難しくなるばかりか、果実が強風にあおられて落下しやすくなるため、果樹として扱う場合は棚仕立てとするのが一般的である。
・花は雌雄の性質を持つ両花性だが、自分の木の花粉では受粉しにくく、他の品種の花粉を必要とする。悪天候が続いた場合、花粉を媒介する虫が少なくなるため、人工授粉の作業が必要となる。
・木の勢いを落とさずかつ品質のよい果実を得るためには、小さな果実が自然に落下した後の5~6月に果実を間引き、病害虫を防ぐための「袋がけ」をする必要がある。
・花や実は短い枝に多いため、伸び過ぎた枝や樹形を乱す徒長枝を剪定する。剪定の適期は1~3月。
【ナシに似ている木】
・リンゴ
・モモ
|
ナシの基本データ
【分類】バラ科/ナシ属
落葉広葉/高木
【漢字】梨(なし)
【別名】Pyrus perotina Rehder
【学名】アリノキ/アリノミ
【英名】Japanese pear tree
【成長】早い
【移植】難しい
【高さ】5~6m
【用途】果樹/庭園
【値段】3000円~