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ヒマラヤスギ/ひまらやすぎ/喜馬拉邪杉
Himalayan Cedar
【ヒマラヤスギとは】
・ヒマラヤ北西部からアフガニスタン東部の温帯地を原産とするマツ科ヒマラヤスギ属の針葉樹。銀色がかった葉と円錐形の神々しい樹姿が美しく、コウヤマキ、ナンヨウスギ(アロウカリア)とともに世界三大公園樹(世界三大庭園美樹とも)の一つに数え上げられ、世界各地の温帯に広く植栽される。
・ヒマラヤスギが日本に渡来したのは1879年(明治12年)頃のこと。横浜に住んでいた英国人ジャーナリスト、ヘンリーブルック氏がインドから種子を取り寄せたのを起源とし、横浜植木という会社が学校等に無償配布したことで普及したという(諸説あり)。
・公園、学校、官公庁、団地、工場、寺社など広い場所を確保しやすい公共の場に植えられていることが多い。かつては記念樹やクリスマスツリーとしての利用もあったが、マイマイガ、マツカレハなどの毛虫が付きやすいことや花粉症への懸念から年々利用は減っている。
・スギといえどもスギ科ではなくマツの仲間。英名のcedarは本来、材に香りのある木全般をいうが、誤ってスギと翻訳したことからヒマラヤスギと名付けられた。
・葉はゴヨウマツのような長さ2~5センチの針状で先端が尖り、クロマツよりは柔らかいが、手で触れるとチクチクする。断面は丸くて裏表は不明瞭。全周に気孔線がある。長い枝では螺旋状につき、短い枝ではカラマツのように30~50片が束になって生じる。成葉は灰色がかった暗い緑色で、他の針葉樹とは異質な印象を受ける。
・ヒマラヤスギは雌雄異株または同株で、開花期の10~11月には雌雄それぞれの花が短い枝に咲く。雄花は多数の雄しべからなる穂状で長さは3センチほど。複数が乱立するためそれなりに目立ち、花粉を出した後は樹下に乱れ落ちる。
・一方の雌花は0.5~1センチほどの円錐形で多数の鱗片が組み合わさって淡いグリーンのバラの花のようになる。木の大きさの割に雌花は相当小さく、また、高所に咲くことが多いため滅多に見ることができない。
・雌花のあとにできる球果(マツボックリ)は直径10センチ以上に及び、遠目からは葉の上にダチョウの卵が乗っているかのように見える。球果は受粉翌年の10~11月にかけて成熟するため、花と球果を同時に見ることができる。
・球果を構成する種子は光沢のある淡い褐色の翼(鱗片)を持つ。種子自体の直径は1~1.5ミリほど。種子は歪んだ三角形の翼によって母樹から少し離れた場所へ落ちていく。ヒマラヤスギの発芽力は乏しいとされるが、公園などでは実生を見ることも珍しくはない。種子には松脂の匂いがあり、ヤマガラやリスなどの小動物はこれを食べるが、苦味が強くて人間の食用には向かない。
・球果は時間の経過とともに形が崩れるが、頂部だけは雌花と同様、薔薇の花のような形に残って地面に落ちる。これを洒落て「シダーローズ」と呼び、リースなどの花材にする。
・ヒマラヤスギの幹は真っすぐに伸び、大きな枝が水平あるいは下垂し、他の木に比べると樹齢を重ねても下枝が残りやすい。樹皮は幼木では灰色で滑らかだが、老木では縦に割れ目が入って鱗状に剥離する。
・学名にある「deodara」は神の木という意味で、この木にまつわる数多くの伝説がある。原産地のヒマラヤやインドなどでは樹高50m、直径3m以上にもなり、大口径の木材がとれるため建材や器具材としても使われる。「ヒマラヤ」は「雪の住処」を意味するサンスクリット語。
【ヒマラヤスギの育て方のポイント】
・日向を好むが環境への適応力が高く、耐陰性、耐乾性、耐暑性もある。本来は肥沃な土地を好むが土地を選ばず、北海道北部を除いた日本各地に植栽できる。ただし、潮風には弱い。
・本来の雄大な樹形を楽しむには相当なスペースが必要だが、刈り込みに強く、小さく仕立てて幅や高さを維持することも可能である。このため一般家庭での利用も珍しくはない。
・根が浅く、風に弱いため、植え込みの当初は支柱を添えるとともに、剪定によって風通しを良くし、倒木を防ぐ必要がある。
・踏圧に弱いため、往来の激しい場所ではフェンスなどを作って根を保護する場合がある。
・枝葉を密生させると都市部ではカラスに巣を作られやすい。巣はワイヤーハンガーなどで作られ、除去するのに相当の手間がかかる。剪定によって枝数を減らし、死角を作らないようにすれば防ぐことができる。
【ヒマラヤスギの品種】
近年は葉の色や形が異なる園芸品種が普及している。
・ヒマラヤスギ オーレア
葉(特に新葉)の色が多少、黄色や灰色を帯び、明るく見える。
・ヒマラヤスギ フィーリンブルー
葉の青味と枝垂れ性が強い品種
【ヒマラヤスギに似ている木】
レバノン、トルコ、シリアなど「小アジア」と呼ばれた地域を原産とする針葉樹。葉はヒマラヤスギよりもやや短い。欧米では庭園に使われるが、自生地では乱伐による絶滅が危惧されている。
北アフリカのアトラス山地原産の針葉樹で、欧米では庭園などに使われるが、日本での生育はよろしくない。ヒマラヤスギのように枝が垂れず、葉はかなり短い。なお、アトラスシーダーにはギンヨウヒマラヤというややこしい名前の品種がある。
ヒマラヤスギの基本データ
【分類】マツ科/ヒマラヤスギ属
常緑針葉/高木
【漢字】喜馬拉邪杉(ひまらやすぎ)
【別名】ヒマラヤシーダ/ヒマラヤシーダー
ブルックマツ/グラントマツ
【学名】Cedrus deodara
【英名】Himalayan Cedar
【成長】早い
【移植】簡単(根回しが必要)
【高さ】20m~50m
【用途】公園/垣根/シンボルツリー
洋風庭園
【値段】800円~