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タチバナ/たちばな/橘
Tachibana orange
【タチバナとは】
・伊豆半島以西の本州、四国、九州及び沖縄に分布するミカン科の常緑樹。日本に自生する唯一の野生ミカンで、奈良、平安時代には普通に自生していたが、現代では海岸沿いの山地や樹林内に細々と生き残る。
・野生のタチバナは環境省の定める絶滅危惧Ⅱ類に指定されており、大規模のタチバナ群落がある高知県室戸市(旧安芸郡)の室戸岬亜熱帯性樹林や同県土佐市の甲原松尾山は国の天然記念物となっている。
・京都御所紫宸殿の前庭には平安時代から「左近の桜」と共に「右近の橘」としてタチバナが植えられており、右近衛府の官人が陳列する基準となっている。現代の紫宸殿には栽培品種が使われており、原種よりも大きな果実がなる。
・タチバナは常緑樹であり、一年を通じて葉が緑色であることや、黄色い果実が比較的長い間、枝に残ることなどから繁栄を象徴する縁起の良い木とされる。タチバナの葉と果実をモチーフとした橘紋は、橘氏や武家の井伊、黒田氏等の家紋として使われた。
・万葉集、伊勢物語、源氏物語、枕草子といった古典にもしばしば登場し、この木に宿るとされるホトトギスは「橘鳥(たちばなどり)」との異名を持つ。
・タチバナという名は、天皇の命令によって中国へ赴き、不老長寿の実を持ち帰ったというタジマモリ(古事記では「多遅摩毛里」、日本書紀では「田道間守」との表記)の名にちなむという説が一般的。花の香りが立つことによるという説、冬でも実をつけて立つことによるという説もある。
・タチバナの葉は長さ3~6センチの細長い卵形で、枝から互い違いに生じる。厚みと光沢があって先端は尖らず、縁には波状の浅いギザギザがある。
・裏面には透明な油点が散在し、ユズなど他のミカン類に見られる葉柄のヒレ(翼)はない。若い枝は緑色で、まばらに小さな棘がある。樹皮は黄色がかった褐色で縦に筋がある。
・開花は5~6月で「花橘(はなたちばな)」は仲夏の季語。枝先や葉の脇に直径2センチほどの白い五弁花が、下向きに1~2輪ずつ咲く。
・花、実、葉には他のミカン類と同様の芳香があり、万葉集にはショウブと共にタチバナの花を薬玉にする歌がある。花言葉は「追憶」。
・10~12月に黄色く熟すタチバナの実は扁平した球形で、直径は2.5~3センチほど。実の中には袋が6~8個あり、計5~6個の種子が入る。
・タチバナの果実は皮が浅くて剥きやすく、人によってはおいしいと感じるが、酸味が強いことや種が大きいことから積極的に生食するものではない。ジャム、果実酒、調味料として使うのが一般的。
・庭師の間でタチバナという場合、赤い実のなるカラタチバナ(百両)を指すことが多いが、両者に関連はない。また、タチバナを小さくしたような実をつけるタチバナモドキも庭木として使われる。
【タチバナの育て方のポイント】
・暖地性であり耐寒性は乏しい。自生は静岡県沼津市が北限とされる。
・柔らかで排水性の優れた土地を好む。
・高温多湿に強く、病害虫の被害も少ない。
・放任気味でも毎年よく結実する。
・枝は横に広がり、繁茂しやすい。木が大きくならないよう定期的に剪定するのが望ましい。
【タチバナの品種】
・コウライタチバナ
山口県萩市と韓国の済州島を原産地とする品種で、果実がより大きく果皮の凹凸が目立つ。市場で流通するタチバナのほとんどはコレ。
・コウジ
タチバナの変種とされる伝統的なミカン。正月飾りや花材に使われる。
【タチバナに似た植物】
沖縄やインドなどに分布するミカンの仲間。同じような花を咲かせるが、果実は赤い。漢字表記は「月橘」
タチバナの基本データ
【分類】ミカン科/ミカン属
常緑広葉/低木~小高木
【漢字】橘(たちばな)
【別名】ハナタチバナ
ヤマトタチバナ
ニッポンタチバナ
タチボ
【学名】Citrus tachibana
【英名】Tachibana orange
【成長】やや早い
【移植】普通
【高さ】2~6m
【用途】切花/鉢植え
【値段】2,500円~(高麗種)