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ヤツデ/やつで/八手
Japanese Aralia
【ヤツデとは】
・福島県以南の本州太平洋側、四国、九州及び沖縄に分布するウコギ科の常緑低木。日本の固有種で海岸付近にある丘陵の林に自生する。日陰や大気汚染に強い性質を利用し、江戸時代後期以降から観賞用の庭木として植栽される。
・ヤツデは19世紀半ばにシーボルトによってヨーロッパに渡ったが、分厚くてピカピカした濃緑の葉や、観葉植物モンステラのような雰囲気が珍しがられ、欧米各国でも普及している。
・葉を手のひらに見立て、客を招き入れるとのゲンを担ぎ、飲食店の店先や玄関に植えられ、都会の雑踏の中で力強く生きる個体も多い。葉は幹から互い違いに生じるが、互いに重ならないよう葉柄の長さを調整しているのが日陰に強い理由。剪定しなければ葉が密になるため、かつてはトイレの目隠しに使われることも多かった。
・ヤツデの葉は直径20~40センチと大きい上、15~45センチの長い柄が持ち、「天狗の団扇(うちわ)」という別名がある。若い木では裂片が少なく、せいぜい三つに裂ける程度であり「鬼の指」という別名もある。
・「八つ手」とはいうものの、葉は8つに裂けずに7つか9つに裂けることが多く、稀に5つ、栄養状態が良ければ11裂、13裂になる。いずれも奇数であるが、末広がりで縁起を担ぐため、あるいは単に「たくさん」を意味するためヤツデとなった。学名はFatsia japonicaだが、fatsiaは「八手(ハッシュ)」が転訛したものとされる。中国での漢名は「八角金盤」。
・ヤツデは厄除けとして家の前に植えられ、葉を門口に下げて魔除けにする俗信もあるが、葉にはファトシンというサポニン配糖体を含み、古い時代にはこれを食べると死に至る(「大和本草」による)と考えられていた。
・ヤツデにそれほど強い毒性はないが、痰を除く薬として煎じた葉を大量に飲んで中毒を起こした例もあり、誤飲すると嘔吐、下痢、腹痛の症状を招くとされる。民間療法では乾燥させた葉を風呂に浮かべ、リュウマチに効果があるとするが一般的ではない。
・ヤツデの開花時期は10月~12月で、枝の頂部から伸びた花茎に直径5ミリほどの白い小花が25輪ほど毬状に集まって咲く。花には5枚の白い花弁があり、春の花のような芳香を放つ。地味な花だが他に花が少ない時季に咲き、滴るように蜜ができるため、キンバエやハナアブなどの虫が多数集まる。
・雌雄同株だが雌花と雄花があるわけではなく、雄しべが伸びる雄性期の後に、雌しべが伸びる雌性期がやってくる。つまり、同じ花が時期によって性を変える仕組みになっているが、一番最後に咲く花は雄花のままで終わるため、一般的には両性花と雄花があると表現される。両性花になる花は上部に多く、下部の花は雄花で終わることが多い。
・花の後にできる果実は直径5ミリほどの小さな球形で、緑から紫がかった茶色、そして黒へと変色しながら翌春(4~5月)にかけて熟していく。一粒の果実に5粒の種子が入っており、これを蒔けば容易に増やすことができる。
・ヤツデの幹は通常1本で、枝分かれは少ないが、稀に2,3本(株立ち)になることもあり、本数が増えるほど高値で取引される。若い幹は緑色だが、2年目以降の幹は淡い灰色になり、幹の上部には古い葉の跡が三日月形に残る。幹の内部には白くて太い髄があり、葉の茎までつながる。
【ヤツデの育て方のポイント】
・土質は選ばないが、やや湿った半日陰地を好み、強い日差しや北風には弱い。寒さにも弱く、東北地方の北部では成育が難しい。
・アオキやカクレミノと並び、日陰に耐える代表的な庭木であり、午前中に1~2時間の日差しが当たれば室内でも育てることができる。
・時折、根元にテッポウムシが発生する以外は病害虫に強い。ただし、花の少ない時季に開花し、花を目当てに数多くの虫が集まる。ハエやアブもダメという人には向かない。
・環境にもよるが基本的には芽を出す力が乏しい。寒冷地において強度の剪定をすると著しく樹形が乱れて枯れこむことがある。しかし、根が残っていれば新たな幹が生じるし、挿し木や株分けで増やすこともできる。
【ヤツデの品種】
ヤツデはどうしても日陰の印象が強く、時として陰鬱なイメージがある。このため白や黄色の斑模様が入るシロブチヤツデ、シロフヤツデ、フクリンヤツデ、キモンヤツデ、キアミガタヤツデなどといった品種が好まれる。流通名は「紬絞り(つむぎしぼり)」「スパイダーウェッブ」など。
・ムニンヤツデ(ハビラ)
ムニンヤツデ属の常緑小高木。小笠原諸島の特産で、枝分かれが多く、ヤツデよりも樹高が高くなる。ヤツデにも耐潮性があるがムニンヤツデはさらに耐潮性が高い。大島以南にはリュウキュウヤツデという変種が分布する。
・タイワンヤツデ
台湾に分布するヤツデで、花の花柱が8~10本になる(日本のヤツデは4~6本)。
・カミヤツデ(ツウダツボク)
カミヤツデ属の常緑低木で、中国本土の南部及び台湾を原産とする。葉は直径70センチほどでヤツデよりもかなり大きく、若い枝と葉の裏面に白い綿毛が密生する。日本でも育てられるが暖地向きであり、東日本では冬季に葉を落とす。茎にある白くて太い髄から、書道や造花で使う通草紙を作るため紙八手と呼ばれる。
【ヤツデに似ている木】
・ハリギリ
落葉樹ではあるが、ヤツデと同じような形の大きな葉ができる。
・キヅタ
蔓性植物だが、ヤツデと同じような花が咲き、同じような果実ができる。
・ファトスヘデラ(ハトスヘデラ)
ヤツデとセイヨウキヅタの交配種。半蔓性で葉は3~5つに浅く裂ける。斑入りの品種がより多く出回っている。
ハリギリやキヅタ、そしてヤツデと同じウコギ科の落葉樹であり、似たような花と実ができる。若芽を食用にする。
ヤツデの基本データ
【分類】ウコギ科/ヤツデ属
常緑広葉/低木
【漢字】八つ手(やつで)
【別名】ヤツデノキ/オニノユビ
テングノハウチワ
テングノウチワ
【学名】Fatsia japonica
【英名】Japanese Aralia
【成長】やや遅い
【移植】簡単
【高さ】1~5m
【用途】和風庭園/公園/店舗
シェードガーデン
【値段】800円~