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アセビ/あせび/馬酔木
Japanese andromeda
【アセビとは】
・本州(山形県~宮城県以西)、四国及び九州に分布するツツジ科の常緑低木。日本特産の木で、やや乾燥した林内や砂礫地、山の尾根などに群生することが多い。
・株全体に毒性があって他の動植物を寄せ付けないため、アセビだらけの景色を作る。奈良の春日大社、奈良公園、箱根、天城山などはアセビの名所として知られるが、これはシカなどの動物がアセビを避けた結果としての景色であることが多い。
・アセビは万葉集にもその名が詠まれるほど古くから親しまれ、春に咲くスズランのような小花を観賞するため、庭木や盆栽としても普及している。日本庭園において灯篭や庭石の傍に植えるのが最も似合うが、花も葉も明るめであり、洋風の庭にも違和感なく植栽できる。
・広く親しまれてきたため呼び名はアセビ、アセボ、アシビ、アシミ、アセミ、アシブ、アセブ・・・と人によって地方によって様々。何が正しいのかしばしば混乱を招くが標準和名は「アセビ」である。
・英語名に含まれるアンドロメダは欧米に咲く別の花のことだが、日本固有の本種がアンドロメダに似ているとして英名に用いる。
・アセビの開花は2月~4月。ドウダンツツジに似た壺型の花が、枝先から多数垂れ下がるように咲いて円錐状になる。花の直径は6~8ミリほどで口のところは浅く五つに裂け、内部には10個の雄しべと1個の雌しべがある。雌雄同株。花の奥には蜜が光るが、アセビは花にも毒性があり、蜂蜜で中毒を起こした例もある。
・花の集りである花序は長さ10~15センチ、小花は20~30個ほどだが、品種によって花序の長短や花数に相違がある。
・自生するアセビの花色は白が基本だが稀に薄紅色のものがあり、園芸用としてはより人気が高い。また、花の付け根にある萼(がく)は個体によって薄紅色になったり黄緑色になったりと面白い。
・アセビの若葉は赤みを帯び、紅葉しているかのように美しい。葉は枝先に集まっているように見えるが、実際は互い違いに生じている。
・葉は長さ3~9センチ、幅2~3センチほどで裏面は白っぽいが、両面とも無毛。革質でツルツルした感じになり、よく見ると葉先の縁には浅いギザギザがある。基部はクサビ形で上面はU字に窪む。
・漢字名のとおり、馬や牛がアセビの枝葉を食べると呼吸中枢が侵され、酔ったように脚が不自由になることから「アシビ(足痺れ)」の別名があるという。アセビという名前も「悪し実(あしみ)」から転じたとする説があり、こうした名の由来はシキミに似る。
・アセビの枝葉を誤食すると腹痛、嘔吐、下痢、痙攣、呼吸困難といった症状が起き、摂取量によっては死に至る。有毒物質は呼吸中枢神経を麻痺させるアセボトキシン(アセボチン/アセボクエルシトリン)。古い時代にはアセビの枝葉を焚いて他者の不幸を願う習慣もあったという。
・落ち葉には他の植物の成長を抑制する物質が含まれており、アセビの下では他の植物が育ちにくい。かつてはこの性質を利用し、葉を浸した桶の水や煎じた葉をトイレや畑に撒き、害虫駆除や毛じらみ、疥癬など皮膚病の治療に使った。
・花の後にできるアセビの果実は直径5ミリほどで、短く曲がった柄がある。枝からぶら下がっているように見えるが先端は上向きで、9~10月頃、褐色に熟すと五つに裂け、風に揺られると中から種子がこぼれ落ちる。
・果実が熟す頃には翌春に向けた蕾ができており、見慣れない場合は果実と蕾を見分けるのが難しくなる。
・幹は株立ち状になるのが普通で、樹齢を重ねるとネジキのように捩れた感じになる。樹皮は赤みを帯びて縦に筋が入る。自然状態での樹高は3m程度。材は稀に床柱や薪に利用する。
【アセビの育て方のポイント】
・常緑樹としては寒さに強く、自然分布より北の青森や北海道南部でも植栽できる。肥沃な土地を好むが庭木としては最も丈夫であり、市販品であれば土地を選ばずに植栽できる。
・大気汚染、潮風、乾燥にも強く、相当条件の悪い場所にも植えられる。ただし、陰樹の性質があって直射日光や西日には弱く、適度な日陰の方が花も葉も美しい。ただしまったくの日陰では花付きが悪い。一日3~4時間程度の日照が理想。
・病害虫に強い。上記のとおり毒性があることから一部の蛾(ヒョウモンエダシャク)以外は寄り付かないと考えられるが、あえてこれを食べて体内に毒性を取り込む虫もいる。
・風通しの悪い場所では初夏から秋にかけてテッポウムシ、ハマキムシ、ボクトウガ、グンバイムシ、エカキムシ等の被害が見られることもある。
・枝分かれが多く、自然に樹形を整えるため、余り手をかけずに育てることができる。しかし、木全体の形としては、頭でっかちなものや、不恰好に育つものも多い。
・芽を出す力はあり、刈り込みに耐えるものの、成長は緩やかであり、刈り込みによって形をビシッと決めるような木ではない。手入れは、大きく飛び出した枝や、根元から出る「ひこばえ」、内部で枯れ込んだ枝を切除する程度にとどめたい。
・剪定で生じた枝葉は毒性があるため、適切に処理する必要がある。花は前年に伸びた枝先に咲くため、秋以降に剪定すると花数が減る。
・繁殖は実生、取り木、株分け、挿し木による。種を蒔けば発芽するが若木は成長が遅いため、本数を増やしたい場合は苗木を買った方が早い。ちなみに販売されいるアセビは挿し木で増やしているものが多い。
【アセビの品種】
・ヒマラヤアセビ
大型の株になる品種。
・ヒメアセビ
高さが60センチほどにとどまる矮性種。開花は通常のものより遅い4月で、葉は糸状になる。
・リュウキュウアセビ(オキナワアセビ)
枝葉が細かに密生し、大きめの花をつける品種。沖縄の山地や奄美大島に自生する。成長は原種より更に緩やか。
・アマミアセビ
奄美諸島の固有種でオキナワアセビに似るが、花の形態が微妙に異なる。
・斑入りアセビ
葉の縁が白い「覆輪アセビ(ふくりんあせび)」など葉に模様が入る品種。通常のアセビよりも株は小さいことが多い。
・コウザンアセビ
中国産で、新芽の赤がより美しい。
・ホナガアセビ(穂長馬酔木)
花の穂が通常のものより長く、30センチ近くまで垂れ下がる品種。園芸品種ではなく自生種とされる。
・ウケザキアセビ
全ての花が上向きに咲く珍しい品種で、京都の限られた地方に自生する。
・アケボノアセビ
稀に自生する品種でピンクの花が咲く。
・ベニバナアセビ
アケボノアセビのうち、よりピンク色が濃いもの。これとは逆にピンクが薄いものはウスベニアセビという。ピンク系のアセビには他にもダイセン、クリスマス・チアなどがあるが、花色には個体差があるため品種の見極めは難しい。
【アセビに似ている木】
同じような花が咲く。
冬にアセビに似たような花を咲かせるが、小さなイチゴのような実がなる。
同じツツジ科でアセビ同様に毒性がある。
アセビの基本データ
【分類】ツツジ科/アセビ属
常緑広葉 低木/小高木
【漢字】馬酔木(あせび)
【別名】アセボ/アシビ
アセミ/アシブ
アシミ/アセブ
ウマクワズ/シカクワズ
ウマギシギシ/ドクシバ
テカキシバ/イワモチ
カクスイ/ヨネバ/ヨナブ
【学名】Pieris japonica
【英名】Japanese andromeda
【成長】やや遅い
【移植】簡単
【高さ】1~9m
【用途】花木/公園/盆栽
【値段】800円~