庭木図鑑 植木ペディア > 山野草 > ヨシ(アシ)
ヨシ(アシ)/よし(あし)/葦
Common reed
【ヨシ(アシ)とは】
・北海道~沖縄の各地に分布するイネ科の多年草。川岸や沼地などの水湿地に育ち、泥の中に地下茎を広げて繁茂する。古くはアシと呼ばれ、現代でも一般にアシと呼ばれることが多いが、アシは「悪し(あし)」に通じるとし、縁起を担いでとしてヨシ(善し)とする。標準和名もヨシ。
・北半球の暖帯~亜寒帯に広く見られ、朝鮮半島や中国にも自生するが、古事記や日本書紀では日本国を「豊葦原瑞穂国(とよあしはらみずほのくに)」と称しており、本種はイネと共に日本を象徴する植物とされる。万葉集にはヨシを謳った句が50近くもある。
・かつては各地の川原で普通に見られたが、土手が作られ、土手がコンクリートで覆われたことで個体数は減りつつある。その群落は水鳥、魚、水棲昆虫、小動物などにとって貴重な生活の場であるとともに、根には水質を浄化させる作用があるため、各地で復元が図られている。
・アシ(ヨシ)の語源については、葉が青味がかっていることを意味する「青し」が転訛したとする説、本種が始めに日本で生じた植物であり、始まりを意味する「はし=端」が転訛したとする説、浅い水辺に生えるため「浅」が転訛したとする説などがある。
・葉は長さ50センチほどの細長い線形で、先端は次第に細くなって垂れ下がる。表面はやや青味がかった緑色で、複数の葉脈が走るがの中心部にある主脈は目立たず、ススキやセイバンモロコシとは異なる。葉の縁はススキと同様にザラザラしており、手を切りやすい。
・葉は太い茎から互い違い出て水平に開くが、生育地の風向きによっては、片側にのみ葉を生じる「片葉の葦」となる。また、茎は節間が長いため葉はまばらな印象がある。葉の付け根は横に張りだして茎を包み込む。
・ヨシの新芽が出るのは新暦の4月20日~24日頃で、伝統的な季節の暦である七十二候には、「葭始めて生ず(あしはじめてしょうず)」がある。水面に顔を見せたヨシの若芽は「葦牙(あしかび)」「葦の角」「葦の錐」などと呼ばれ、俳句ではヨシの芽出しを春の季語として扱う。
・中国では春に採取したタケノコ状の若芽を「蘆筍(ろじゅん)」と呼び食用する。硬質な成葉からは想像しにくいが、展開前の若芽は皮を剥いて茹でれば、和え物、酢の物、煮つけ、油炒めなどにして食べることができる。また、静岡県の浜名湖周辺では、端午の節句にヨシの葉でちまきを作る習慣がある。
・茎は緑色の円柱形で節に毛はなく、分岐せずに4m近くまで直立する。内部は空洞になっているが太くて丈夫であり、冬季に刈り取ったヨシの茎はヨシズ、スノコ、スダレや屋根材にも使われる。古代人はこれで農具や船までも作り上げたという。
・ヨシの開花は8~10月。茎の先に伸びる長さ20~40センチの花序に、2~4個の小花からなる小さな穂が行儀よく並んで垂れ下がる。穂は紫がかった褐色で、開花が進むと褐色になる。小花は長さ1.5センチほどで、基部には絹のような毛がある。秋になって実が熟すと綿を吹いて風に舞うが、この綿毛はワタの代用にされることもあった。
・冬になると葉は下から順に枯れ落ち、花穂(果穂)の抜け殻を付けた茎だけがしばらく残る。この時季のヨシは「枯蘆(かれあし)」と呼ばれ、俳句では冬の季語となる。
・根はクリーム色で断面は扁平。節ごとに多数のヒゲ根を出し、その反対側から茎を立ち上げる。ヨシの根は生薬名を「蘆根(ろこん)」といい、秋に採取した根を乾燥させ、煎じて飲めば利尿、健胃、吐き気止めに効能があるとされる。
【ヨシ(アシ)の品種】
葉に白い模様が入る斑入り種や、草丈が大きくならないヒメアシがあり、これらは水辺の景を演出する花材として生け花に使われる。
【ヨシ(アシ)に似ている草花】
・ツルヨシ
川岸に見られる近縁種。茎は細長くて節からヒゲ根や枝を出し、根は地上を這うように伸びる。
・セイタカヨシ
ヨシよりも草丈が高く、葉は垂れずに立ち上がる。茎が分岐することや冬でも葉が枯れずに残ることがヨシとの大きな違い。
・クサヨシ
湿地に生える多年草。葉はヨシに似る草質で柔らかい。花序は緑白色の円錐状で立ち上がる。
・パピルス(カミガヤツリ)
フランスの数学者であるパスカルが残した「人間は考える葦(アシ)である」という言葉は、人間の無力さを葦にたとえたものだが、これは本項の丈夫なアシではなく、カヤツリグサの仲間であるパピルスのこと。
ヨシ(アシ)の基本データ
【分 類】イネ科/ヨシ属
多年草
【漢 字】葦/蘆/葭
【別 名】キタヨシ/ヨシタケ
ハマオギ(浜萩)
ヒーヒーダケ
【学 名】Phragmites communis Trin.
【英 名】Common reed
【開花期】8~10月
【花の色】褐色
【草 丈】~400cm