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イチョウ/いちょう/銀杏・公孫樹
Ginkgo
【イチョウとは】
・イチョウ科イチョウ属の落葉樹。秋の黄葉や茶碗蒸などに使う銀杏で馴染み深く、公園、学校、街路、寺社等に植栽される。約2億年前の中生代ジェラ紀に栄え、現在まで種を絶やさずに続く歴史の長い樹種だが、その仲間の多くは恐竜と共に氷河期に絶滅した。現在イチョウ科の木はこれしかなく、メタセコイアと共に「生きた化石植物」と呼ばれている。
・日本でもイチョウは約100万年前に一旦絶滅したが、中国南東部で生き残っていた個体が朝鮮半島を経緯して渡来し現在に至る。その時期については、仏教が伝播した飛鳥時代とする説や室町時代とする説があり、特定されていない。
・イチョウという名は、中国名のイーチャオ(鴨脚=葉の形がカモの足に似ることから)が転訛したものとされる。なお、漢字表記の「公孫樹」は、孫の代にならないと収穫ができないことを意味し、「銀杏」はアンズ(杏)に似た銀色の種子に由来する。
・長寿の木であり、樹齢1、000年を超えるとも喧伝されることがあるものの、実際の寿命は数百年程度と考えられている。長寿のイチョウの中には天然記念物に指定されるものや、神社で御神木とされる例も多い。
・老木のイチョウには幹から「気根」が垂れ下がる個体があり、これを女性の乳になぞらえて、乳がよく出るようにと祈願した習慣が各地に残る。ただし、乳が垂れるのは雄株であることが多く、ギンナンを作らないため栄養過多になった結果とされる。
・雌雄異株で、葉が展開する4~5月に雌雄それぞれの花が咲くが、花には花弁などはなくあまり目立たない。花言葉は「長寿」「荘厳」など。
・雌花は緑色で、長い柄の先端で2個の「胚珠」を丸出しにし、うち一個がギンナンになる。雄花は淡い灰白色の尾状で多数の雄しべが螺旋状に並び、縦に切れ込みのある「葯室」が二つある。花粉は風に乗って数キロ離れた先でも受粉するが、受粉後しばらく時を経た9~10月頃、花粉管の中に精子(精虫)を作って受精する。なお、イチョウに精子があることは1896年に平瀬作五郎氏が発見した。
・ギンナンが熟すのは10~11月。イチョウは裸子植物であるため、ギンナンはイチョウの実ではなく種子そのもの。悪臭があるのは外種皮という多肉質の部分で、その内部にある白くて硬い殻が中種皮、そして食用にする部分は胚乳と呼ばれる。外種皮にはギンコール酸、ギンコトキシンという有毒成分を含んでおり、汁液が皮膚に付着すると人によっては、皮膚の炎症や痛みを招く。
・イチョウの胚乳は料理に使われ、薬用にもなる。しかし、最近では落ちたギンナンの匂いや処理が厄介であることや、これに触れると皮膚がかぶれるということで、街路では種子のできない雄木が好んで植えられる。ギンナンの発芽率は高く、親木の近くでは容易に子木を見付けられる。
・ギンナンの収穫量が最も多い都道府県は愛知県。中でも稲沢市祖父江町はギンナンの一大産地として知られ、特に「藤九郎」という品種は、その大きさや食感から人気が高い。ただし、ギンナンの食べ過ぎは中毒を起こす。
・イチョウの葉は扇型で幅5~7センチほど。上端には不規則な凹凸があって浅く裂けるのが普通だが、個体によって微妙に異なる。かつて植木職人の間では、切れ込みがあってズボンのように見える葉を持つのが雄木、切れ込みがなくスカートのように見える葉を持つのが雌木という俗説が流布していた。
・しかしこうした葉の違いは雌雄ではなく枝が出る場所や樹齢などの個体差によるもので、徒長枝などの長枝では葉に裂け目が生じやすい。また、雄株は枝分かれが少なく縦方向に伸び、雌株は分岐が多くて横に広がるという性質もあるが、花や種子を見ないでイチョウの雌雄を識別するのは難しい。
・葉は6センチほどの長い柄を持つが、その出方は場所によって異なり、長い枝からは互い違いに、短い枝では束になって生じる。葉の様子は広葉樹そのものだが、針葉樹と同じ裸子植物であるため、ここでは針葉樹に分類している。葉が燃えにくく、幹や枝にも耐火性があるため、イチョウは「火伏の木」と呼ばれ、街路や学校に多用された。
・葉を揉むとお馴染みのギンナンの香りがあるが、葉のエキスにはフラボノイド配糖体やテルベンラクトンが含まれ、血液の循環を改善する効果や記憶力を維持する効果があるとして健康食品に利用されている。
・樹高は最大で45m、直径は2~5mにもなる。材木として流通することはほぼないが、材はスギよりも硬く、クリーム色の綺麗な仕上がりになるため、まな板や碁盤、将棋盤、帽子の木型に使われる。ただし、材としての耐久性はやや乏しい。樹皮はコルク質が発達しており、大木の幹に触れると弾力と温かみがある。イチョウが生き残ってきたのは、この厚い樹皮が害虫や乾燥を防いだことによるところが大きい。
【イチョウの育て方のポイント】
・乾燥、寒さ、強風、大気汚染に強く、痩せ地にも植栽できるが日照を好む陽樹であり、日陰では生育が悪い。植栽の適地は北海道中部よりも南。
・根が深いため基本的には風に強く、台風で転倒することは少ないが、落下した枝などで家屋を損傷する危険性はある。一般家庭には向かない。
・成長が早く一般的な庭では剪定が不可欠だが、毎年、強い剪定を繰り返すと樹形が不恰好になりやすい。都会で見慣れているコブのある枝ぶりはイチョウ本来の姿ではない。
・葉が密生し、木陰を作ることができるものの、落ち葉の清掃に手がかかる。
・病害虫の被害ほとんどつかないが、クスサンという大きな蛾の幼虫によって葉を食害され、時に新葉を丸坊主にされることがある。
・ウルシにかぶれるような敏感肌の場合、ギンナンはもちろん、葉に触れたり、イチョウの木の傍を通っただけで皮膚に炎症を起こしたり、水泡ができたりするため注意する必要がある。
【イチョウの品種】
以下、厳密には品種ではなく、遺伝的に発生する形状に対する特別な呼称
・オハツキイチョウ
種子が葉に密着してできるため「実付きイチョウ」とも呼ばれる。
・チチイチョウ
幹や太い枝からコブ状の気根が垂れ下がるイチョウ。雌雄にかかわらず、遺伝的に持ち合わせた個体が樹齢を経ると発生するとされるが、若木のうちから気根を出す個体を特にチチイチョウという場合もある。若木のうちから気根を出す個体は成長が遅くて大きくなりにくいため庭木に適する。
・フイリイチョウ
葉にクリーム色の縞模様あるいはドット模様が入るもの。
・シダレイチョウ
枝がしだれる品種
・ホウキイチョウ
箒のように小枝が多数生じるもの。
・ラッパイチョウ
葉がラッパのような形状になる品種
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イチョウの基本データ
【分類】イチョウ科/イチョウ属
落葉(裸子植物)/高木
【漢字】銀杏/公孫樹/鴨脚子
【別名】ギンナン/ギンナンノキ
ギンギョウ
【学名】Ginkgo biloba
【英名】Ginkgo
【成長】かなり早い
【移植】簡単
【高さ】20~45m
【用途】公園/街路樹/庭園/盆栽
【値段】1000円~