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シダレヤナギ/しだれやなぎ/枝垂柳
Weeping willow
【シダレヤナギとは】
・中国中南部を原産とするヤナギ科の落葉高木。新緑の美しさや柔らかな枝ぶりを観賞するため、古くから街路や庭園に植栽され、特に水辺の景を演出する際に使われることが多い。
・シダレヤナギが日本へ渡来した時期は不明だが、春を告げる植物として万葉集に詠われていること、平安京の街路樹として使われた記録があることから、奈良時代後期以前に伝わったと考えられている。
・和風の印象が強いシダレヤナギだが、水辺に植栽する風習は隋や唐の時代の中国に遡る。また、街路樹としては17世紀末から世界各地に普及している。
・日本では京都白川沿いや銀座の並木が有名だが、後者の最盛期は明治17年~昭和43年で、通行量の増加と共に枝垂れる枝が邪魔者扱いされるようになり、今は僅かばかりが復活している。
・学名にあるbabylonicaはバビロン(現イラク付近)のこと。中国生まれだが、シルクロードを経て中東の各地に伝わり、植物学者のリンネがバビロンにあったものを標本として命名したと考えられている。
・シダレヤナギという名前は、枝が垂れる(=枝垂れ(しだれ))性質による。「ヤナギ」については、矢の材料とした「矢の木」が転じたと新井白石は記しているが、少なくともシダレヤナギの細い枝で矢を作るのは難しい。枝を使って魚を捕らえる「簗(やな)」を作ったことによるという説の方が力強いが、中国語でヤナギを意味する「楊(やん)」から「楊の木」、それが転じてヤナギになったという説もある。
・国を問わず、春になると一斉に芽吹く生命力や、長く垂れ下がる枝葉に霊力を感じるようで、中国では魔除けとして正月飾りに使い、旅立つ友には輪にした枝を贈り、再会を祈念した。朝鮮半島では墓苑に植え、日本では長寿を記念して元日にこの箸で食し、繭玉を刺して正月飾りにする風習があるのもシダレヤナギの霊力に頼んだもの。
・一方、シダレヤナギには幽霊のイメージがあるが、これはかつて三十三回忌や五十回忌の最終法要で使う卒塔婆をシダレヤナギで作り、これが根付いたら死者が成仏したとする風習があったことによる。
・シダレヤナギの葉は長さ8~12センチ、幅1~2センチの線形で枝から互い違いに生じる。葉の先端は次第に細くなって尖り、縁には細かなギザギザがある。両面とも無毛で表面は艶のある淡い緑色。裏面は艶がなく、粉を吹いたように青白くなる。
・枝は細く柔らかで、若いうちは多少の軟毛が見られるが、やがて無毛となる。本来、シダレヤナギの若い枝は黄褐色だが、近年は本種とセイヨウシロヤナギとの雑種で、鮮やかな黄色い枝のボチヤナギが、シダレヤナギを名乗って出回っている。
・シダレヤナギの開花は3~4月。ネコヤナギやバッコヤナギに比べると小さくて目立たないが、新葉の展開と同時に尾状の黄色い花が枝に垂れ下がって咲き、その下には3~5枚の小さな葉がある。
・雌雄異株で雄株には雄花が、雌株には雌花が咲くが、日本には雌株が少なく、街中で目にするのはほとんどが雄株となる。雄花の花序(花の集り)は長さ2~4センチ。黄色い葯のある二つの雄しべは基部で合着している。
・雌花の花序は雄花より小さく、子房は狭い卵形。ごく短い花柱があり、その先端は二つに裂ける。雌花の後には「柳絮(りゅうじょ)」と呼ばれる、綿毛のある乾いた果実ができ、5月に熟すと自然に裂けて風に飛ばされる。ただし、結実するのは雌株かつ相当な大木であり、繁殖は挿し木によることが多い。
・日本では最大でも直径60センチほどにとどまるが、原産地では1~1.5mにもなる。樹皮は灰色を帯びた褐色で、樹齢を重ねると縦に裂け目を生じ、樹液にはコムラサキなどの蝶がやって来る。成長が早いため材の密度は低く、建材には向かないが、稀に細工物や器具に利用される。
【シダレヤナギの育て方のポイント】
・耐寒性と耐暑性があり全国で栽培できる。代表的な陽樹(=光を好む木)であり、日照が不可欠。
・川辺や御濠沿いなど水辺に植えられることが多く、湿った場所を好むが、乾燥地にも耐え、環境への適応力は高い。
・やや粘土質の肥沃地を好むが、土地を選ばずに育つ。
・病害虫に強いがテッポウムシ、ハムシ、カミキリムシ、うどん粉病などの被害に遭うこともある。また、大気汚染の激しい都市部では夏季に葉を落とすことがある。一般的に寿命は短い。
・成長が早く大木となりやすいが、樹形次第では一般家庭でも管理できる。剪定にはかなり耐え、棒状に切断しても再生する。剪定の適期は冬から春だが、芽出す力が強く、ほぼ一年中可能。
・根の張りが浅く、台風などの強風で倒れやすいため、植栽後は支柱を添えた方がいい。ちなみに倒れたものを放置していても、新たに根を出して育ち続けるほど性質は強い。
【シダレヤナギの品種】
・葉が捻じれ上るウンリュウヤナギ(コウテンヤナギ)やコゴメヤナギなどの変種が知られる。
・シダレヤナギのうち、枝ぶりが優美なものを特に六角堂(京都頂法寺など)あるいは、西湖柳と呼ぶことがある。また、雌雄によって枝の垂れ方が異なるとし、雌株をコシダレ(小枝垂れ)、雄株をオオシダレ(大枝垂れ)と呼び分けることも。
【シダレヤナギに似た木】
ヤナギは北半球の温帯以北に計350種以上が育つ。日本には30以上の品種が分布し、さらに自然交配種も数多く存在する。
カワヤナギ ヤマヤナギ
コリヤナギ イヌコリヤナギ
シダレヤナギの基本データ
【分類】ヤナギ科/ヤナギ属
落葉広葉/高木
【漢字】枝垂柳/垂柳/水柳
【別名】ヤナギ/イトヤナギ
カゼナグサ/カザミグサ
カワゾイグサ/スダレヤナギ
マユダマヤナギ
【学名】Salix babylonica L.
【英名】Weeping willow
【成長】かなり早い
【移植】やや難しい
【高さ】8~25m
【用途】公園(特に水辺)/街路樹
【値段】300円~