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ヤブツバキ/やぶつばき/藪椿
Camellia
【ヤブツバキとは】
・本州(青森県夏泊半島が北限)~沖縄の照葉樹林内に自生するツバキ科の常緑樹。日本の固有種で、東北地方では海岸沿いに多く、それ以外の場所では山地にも見られる。大島を代表とした伊豆七島はヤブツバキの名所として古くから知られる。
・日本最古の観賞用花木あるいは代表的な茶花として知られ、江戸時代には本種とユキツバキを掛け合わせるなどして数多くの品種が作られた。ヨーロッパにおいても「冬のバラ」と称され、イエズス会の宣教師であるゲオルグ‐ジョセフ‐カメルの紹介を機に品種改良が進んだ。単にツバキという場合は園芸品種を含むが、野生の原種であることを強調する際、藪に生えるツバキ=ヤブツバキと称する。
・ヤブツバキの葉は長楕円形で先端が尖り、周囲には細かなギザギザがある。長さ5~11センチ、幅3~8センチほどで、枝から互い違いに生じる。両面に毛がなく、年中ツヤツヤとしている。葉を食べることはできないが、春を演出するため餅や寿司をツバキの葉に挟む風流な伝統がある。
・「ツバキ」の語源については、光沢を表す古語の「ツバ」を冠した「ツバの木」からツバキとなったとする説、「艶葉木」「光沢葉木」あるいは「厚葉木」、朝鮮語のトンベック(冬柏)を語源とする説など諸説ある。)。暖地の生まれでありながら寒冷地にも耐える生命力の強さから、時に神聖な木とされる。
・漢字は「椿」「海石榴」「山茶」が当てられる。最も有名な「椿」は和字(日本ならではの使い方)であり、中国語の「椿」はチャンチンという別の木を示し、ツバキは「山茶」と表す。英名のカメリアは、この木を日本からロンドンに持ち帰ったという上記チェコスロバキア人宣教師の名前に由来する。
・ヤブツバキの開花は10月~4月。枝先の葉の脇に直径5~7センチの花を一輪ずつ咲かせる。5枚ある花弁は赤又は白で、やや筒状に開くのが特徴。しばし混同されるサザンカやチャノキのように全開せず、その控えめな様子が好まれて茶花に使われる。
・多数ある雄しべの花糸は下半分が合着して筒状になり、その基部はさらに花弁と合わさる。このため咲き終わった花が丸ごと落下するのもサザンカとの違いであり、武士たちは、これが「打ち首」を連想させるとして忌み嫌った、という俗説が知られる。
・ツバキの花には蜜が多く、これを吸いに来るヒヨドリやメジロによって花粉が運ばれる。また、花はサルの好物であり、人間社会でも花弁を天婦羅にして食べる風習がある。古代には落花を集めて煮出し、桜色や椿鼡の染料に用いた。
・秋に熟す果実は直径3センチほどで、中には3~5個の種子を含む。この果実を砕いて蒸し、重しを乗せることで抽出されるツバキ油にはオレイン酸が含まれ、食用(てんぷら油など)、整髪用、薬用(アトピーなど)、工業用に使われる。かつては不老の妙薬として海外からも注目を浴びた。果皮は染料となり、黄茶、薄鼡色を染め上げる。
・ヤブツバキの樹高は最大で15m以上になる。樹皮には細かな皴や模様が出ることもあるが触り心地は滑らか。材は緻密で耐久性が高く、縄文人はツバキの材で櫛や道具の柄を作ったという。光沢のある仕上がりはツゲに似ているが、ツゲほどの高級品とは見なされない。現代でも櫛、将棋の駒、印鑑等に利用される。
・自生の北限地である青森県の夏泊半島には、1万本を超えるヤブツバキの群落があり、国の天然記念物に指定されている。
【ヤブツバキの育て方のポイント】
・温暖な地を好み、冬の寒風、乾燥に弱い。土質はさほど選ばずに育つ。
・半日陰地を好み、日陰にも強い(日差しが強い場所では葉色が悪い)。
・一年中、光沢のある濃緑の葉をつけており、目隠し、風よけとして使うことができる。ただし、葉の色が濃いため、放任すると庭が鬱蒼とする。
・チャドクガの被害に遭いやすいため、消毒や剪定が不可欠。卵から成虫まで全成長段階において毒性を持つチャドクガは植木屋の天敵だが、特に幼虫を覆う毒針毛(どくしんもう)は近付いただけで強烈な痒みとかぶれを引き起こす。株元の掃き掃除のみならず、チャドクガのいる株の脇を通行するだけで皮膚に炎症を起こすことがある。
・チャドクガ対策としても剪定は不可欠だが、芽を出す力がそれほど強くないため、剪定には技術と知識が必要であり、樹形はまとめにくい。丸や四角に刈り込む例もあるが人工的な樹形にすると趣がない。
【ツバキとサザンカの見分け方】
・サザンカの若い枝には細かな毛が生えている。
・サザンカは秋から冬に花が咲く。ツバキは晩冬から初春。
・ツバキは花が丸ごと落下して散る。サザンカは花びら単位で散る。
・ツバキの葉は陽にかざすと葉脈が透けて見えるが、サザンカは見えない。
【ヤブツバキに似ている木】
日本に自生する野生のツバキは本種のほか、本州中北部の日本海側を中心に分布するユキツバキと、屋久島に分布するヤクシマツバキがある。
雪に耐えるため枝が横へ這う性質を持ち、葉はヤブツバキよりも薄く、縁により鋭いギザギザがある。
・ヤクシマツバキ
屋久島の山中と沖縄に点在し、直径5~10センチにもなる果実ができるため、別名をリンゴツバキという。花はヤブツバキとほぼ同じで、種子の大きさも変わりない。リンゴのように大きくなるのは、果皮が厚いため。なお、ユキツバキとヤクシマツバキを本種の亜種と考える説もある。
中国南部及びベトナムを原産とするツバキで、黄色い花が咲く。
【ヤブツバキの園芸品種】
ツバキには500を超える品種があり、以下はほんの一部に過ぎない。ツバキの代表的な品種はワビスケで、花が俯いて半開し、若い苗の雄しべは短く、雌しべ(花柱)が曲がるのを特徴とする。
ヤブツバキの基本データ
【分類】ツバキ科/ツバキ属
常緑広葉/小高木
【漢字】藪椿(やぶつばき)
【別名】ツバキ/ヤマツバキ
カタシ
【学名】Camellia japonica
var.japonica
【英名】Camellia
【成長】遅い
【移植】簡単
【高さ】5m~15m
【用途】花木/垣根/茶花
【値段】500円~